「生きものの記録」
黒澤明監督があの「七人の侍」で大成功したあとに取り組んだ映画である。
黒澤明監督がこれまでコンビとして音楽を担当してきた早坂が、当時のビキニ環礁実験、第五福竜丸の被爆事件が起こり、これを受けて「こう命が脅かされちゃ、仕事はできないね」との一言から、映画のテーマが決まったという。
物語は70をこえた老人が米ソ核兵器競争、ビキニ環礁水爆実験などで秋田県に地下施設を作ろうとするも、日本では放射能を防げないと知り、サンパウロへ親族、妾やその子どもたちまでも移住しようとするが、家庭裁判所に息子たちは訴えを起こす。家庭裁判所参事の原田は、その調停に呼ばれる。
老人の危機感にもかかわらず、誰もサンパウロへの話を本気にせず、それでも老人は強引に話を進めるのだった。
今だ! この映画は東日本大震災を経験し、原子力発電事故を経験した今の日本人だからわかる。
この映画の当時、あれだけ核兵器の驚異があっても、まだ日本人は他人事だった。だから黒澤明監督映画で唯一の赤字映画となった。
でも今の日本人ならば、きっと理解できる。移住を試みる老人の気持が理解できる。いつ、地震が起こるかもしれない。また原子力発電事故が起こるかもしれない。某国からミサイルが飛んでくるかもしれない。日本はあの当時より確実にこの映画をリアルに受け止められる現実がある。
この映画の題名を見たとき、なんと大げさな題名なのかと思った。が、映画の中で志村喬演じる原田が死の灰という本を読みながら息子に言う。「この本を読んだら他の動物は逃げ出すよ」
そう、人間は考えやしがらみに生きる生き物だ。しかし本能で生きる動物がもし放射能やその知識を理解できたなら、きっと逃げ出す。それは私も同感だ。
そしてこの映画はあの当時の人々はもちろんのこと、あの頃から見た未来の私達、さらに今より未来の人類。
何百年、何万年、何億年先、もしかしたら人類ではない別の文明、別の知的生命体、地球が滅んだあとに、別の惑星にいるかもしれない宇宙のどこかの文明人たちへ、地球にはこんな生き物たちが生きていた。
そう伝える映画なのかもしれない。
自分が400年、映画を作り続けられたら、きっと世界平和にしてみせる。
黒澤明監督はそう言っていたそうだ。だからこの映画は未来永劫、核兵器の驚異があったという現実を伝える映画。
だから「生きものの記録」あの当時の、人類という生物の記録なのだ。
この映画は例えば50億年後、地球が太陽の爆発で消滅したとしても、宇宙が消え去るまで永遠に残し、まさしく記録として残してほしい映画だ。
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